大判例

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東京高等裁判所 昭和38年(う)1532号 判決

被告人 松本鉄雄

〔抄 録〕

本件起訴状記載の公訴事実は、「被告人は、昭和三十七年七月二十七日施行の安房郡鴨川町長選挙に際し同選挙に立候補を決意していた島川忠治の選挙運動者であるが同候補者に当選を得しめる目的をもつて同候補者の選挙運動者加藤市之助、同村上伝治と共謀の上、右立候補届出前である同年六月十三日頃同町川口所在本覚寺内松風閣において、同選挙の選挙人中尾康政外十七名に対し同候補者のため投票並びに投票取纒等の選挙運動を依頼し、その報酬として一人当り百九十二円相当の酒食の饗応接待をなしたものである」というのであるが、これに対し、秋山弁護人は、右公訴事実は、被告人と加藤市之助、村上伝治とは共同正犯であるというのであるが、共同正犯とすれば右加藤、村上は実行行為中の如何なる部分を担当したのであるか、被告人が右両名と共謀したという事実は何事であるか、またその事実はいつどこで謀議されたのか、中尾康政外十七名の十七名とは誰を指すのか、一人当り百九十二円相当の酒食の饗応接待をしたという一人当り百九十二円の算出根拠はどうなのかの諸点を明らかにしておらず、刑事訴訟法第二百五十六条第三項に定める訴因を明示した記載といえないから、本件公訴は同法第三百三十八条第四号により棄却さるべきであるのにかかわらず、原審は検察官に何等釈明を求めることもせず審理を進めて有罪の判決をしたのであつて、その訴訟手続には法令の違反があると主張し、鬼形弁護人は、本件起訴状は右の中尾康政外十七名(本件略式命令に中尾東政とあるのは中尾康政の誤記と認められる)が何人を指すのか不明である点で訴因を明示していないから無効であると主張する。

案ずるに、起訴状に数人共謀の上犯罪を実行したとの公訴事実を記載する場合において、その実行行為が日時場所及び方法を以て特定して記載されてあり、これが共謀に基くものであることが示されている以上、その共謀ないし謀議の日時場所及び内容、各人が分担した実行行為の内容まで一一具体的に示されていなくとも、一共謀の点を含めて罪となるべき事実は自ら特定されるのであつて、刑事訴訟法第二百五十六条第三項に定める訴因の明示に欠けるところはないといわなければならない。また本件は単一の意思に基き同一日時場所において多数の選挙人を集めてこれに酒食の饗応接待をしたという事案であつて、検察官はこれらの選挙人に対する饗応接待を包括して一罪として起訴したものと解されるのであるから、これらの選挙人を示すのにそのうち一名の氏名を掲げその余は外何名と記載したからといつて訴因の明示に欠けるものとはいえず、さらに起訴状中饗応接待に用いた酒食の価額を一人当り一九二円相当と記載したのはその饗応接待の程度を表わすものとして何等欠けるところはなくそれ以上訴因としてその算出根拠まで明示すべき必要は毫も認められない。また前記公訴事実の記載が被告人と加藤市之助、村上伝治とを共同正犯とするものであることは、被告人は右両名と「共謀の上」との文言自体に徴し明らかであり、その余の所論指摘の事項はいずれも訴因として具体的に示すことは必ずしも必要ではなく、審理の過程において証拠により逐次明らかにされれば足りるのである。本件起訴状記載の公訴事実が訴因の明示を欠いていることを前提とする各論旨は理由がない。

(長谷川 関 小林信)

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